美しいサシが入った和一牛のイチボ(モモ肉)。一頭からとれるのはわずか4kgほど。それゆえ「幻の部位」とも呼ばれる
石鎚山系を源とする吉野川と、剣山を源とする祖谷川。二つの清流のほとりには、青々と牧草が生い茂り、美濃田の風が吹き抜けるファームがある。「和一牛」は、そんな自然豊かな場所で愛情深く育てられた国産黒毛和牛。幻の和牛とも称されるその肉質は、全国の料理人からも絶賛されている。その希少な肉を存分に味わえるのが、高松市中心部にある[Don di mare]だ。良港に恵まれた香川県は、質のよい魚が手に入る。この店の看板メニューも、その旬魚を使った料理なのだが、敢えて今宵は和一牛尽くしを愉しむことにした。なにせ、和一牛は幻の和牛。この機会を逃したら次はいつ口に入るか分からないからだ。
まず運ばれてきたのは、アキレスのトマト煮込み。ミネラルウォーターで下茹でをした後、トマトソースでじっくり一日煮込む。とろけるような食感と濃縮された旨み。仕上げにパルミジャーノレッジャーノをかけて、バーナーで炙るという技も心憎い。自家製のパッパルデッレ(平打ちのパスタ)のボロネーゼには、粗く切った和一牛と味豊豚がたっぷり。2つの銘柄肉が互いの味わいを主張する存在感満点のひと皿だ。テールの赤ワイン煮込みは、仕込みに三昼夜を要する。その妙味は、美味をつくり出すために素材と料理人の想いと時間が必要であることを理解させてくれるだろう。
美味には美酒も付き物。この店には、最高のコンディションでキープしたビオワイン(有機農法で栽培したブドウで仕込むワイン)を中心に常時40種を用意している。県内の牧場からカードの状態で仕入れ、店で練り上げたモッツァレラチーズを巻き込んだ和一牛の包焼き、トリュフ塩をまぶした炭火焼ステーキ…と料理が供されるたびにワインを選ぶ。シェフがテーブルに顔を出し、ワイン選びもアドバイスしてくれるというカジュアルなもてなしも満足度を高めてくれる。
幻の和牛とビオワインを堪能した帰り、次は魚で…と次回の予約をしたのは、至極当然の流れであろう。
和一牛の料理は、コースやアラカルトで味わえる。
写真は手前から炭火焼ステーキ(3,000円)、包焼き(2,500円)、テール赤ワイン煮込み(コースの一品)
ビオワインとは、ビオロジックワインのこと。化学肥料や化学合成肥料などを使用しない生産者が無農薬で栽培したブドウで仕込むワインのこと。肥料には鶏糞などを使用し、醸造の過程で必要不可欠な酸化防止剤も使用しない。豊かなテロワール(土壌)で育ったブドウのポテンシャルが、やさしく深みのある味わいに仕上がる。一説には二日酔いしにくいとも。
[Don di mare]には赤、白ともに多数の銘柄を揃えている。
ボトルで3,500円~と手頃
気取りすぎず、それでいて洒脱な雰囲気の店内。オープンなスペースと半個室があるので、さまざまなシーンに対応。グループならほどよい賑わいを満喫できるオープンスペースでカジュアルに楽しむのもいい